斜版橋について…
本ブログの一稿目として、斜版橋について思うところを書きます。
まず、この斜版橋という名前、なかなか耳慣れない形式名かと思います。どのような橋梁か簡単に言うと、斜張橋、エクストラドーズド橋等の外ケーブルをコンクリートで覆ったもの、となるでしょうか?近年増えているフィンバック形式も大きな分類では斜版橋だと言えそうです。イメージしやすいものとして、同形式で最も有名な橋はスイスのガンター橋でしょう。この形式の主な特徴として、桁高の抑制やケーブル防護対策が不要になるなど、PC斜版による構造系への影響やケーブル維持に関する利点が挙げられます。
さて、今回橋について語る上でなぜ斜版橋を選んだのかというと、この形式が鉄道橋で多く採用されている形式だからです。コンサル鉄道部勤務という私の仕事上、ここに自然と興味が向いたのです。
「PC斜張橋・エクストラドーズド橋設計施工基準(技法堂:2009)」の付属資料によると、国内で斜版橋として分類されるものは7橋しかなく、その全てが鉄道橋となっています(2010年に施工された第二吾妻川橋梁を併せて全8橋。こちらも鉄道橋)。これは、斜張橋と比較して振動やたわみに対して優れていることと、鉄道橋における同内容の制限が厳しいことに由来しているようです。また、所在地も川内川橋梁(鹿児島県)を除き、ほぼ東北地方〜北海道に分布していることから、ケーブル防護の意味合いも強いのかもしれません。
…と、ここまで一般的な内容を書きましたが、もう1つ斜版橋を対象にした理由があります。現状架けられている同形式の橋梁は、比較的自由度が高い形式にも関わらず、洗練されていない、野暮ったい雰囲気のものが多いのです。ここからはかなり個人的な印象も含めた内容となります。
まず、小本川橋梁や新牛朱別橋梁(下画像)など最初期の斜版橋で見られるこの形。
(出典:北海道土木技術会コンクリート研究委員会HP)
1つの版ではなく比較的細い2本の斜材をハープ型に張り出しています。見た目では、通常の斜張橋にみられる複数本のケーブルが成す繊細さはありません。ガンター橋のような版面の創り出す力強さにも欠ける。主塔はいうまでもなく、斜材の桁への取付け部も桁と一体となって構造系に影響しているようには見えないものがあります。PC斜材にすることで得られた効果はケーブル本数の減少に留まっているのではないでしょうか?先に述べたように、寒冷地域などでのケーブル防護対策としては有効でしょうが、あくまで付加的な扱いに見えてしまいます。
(出典:橋の散歩径HP)
比較的最近の斜版橋では少し系統が変わってきます。須川橋梁や川内川橋梁(上画像)のようなものです。
先に示した橋梁との大きな違いとして、複数本のケーブルを含んだ1枚の版で斜材が構成されています。よりシンプルにまとまっており、特に川内川橋梁では桁と斜版の水平方向に延びる面が気持ちの良いものです。主塔高さは低くなり、下路〜中路形式なので分かりにくいかもしれませんが、桁高も抑えられています。主桁には傾斜も付けられており、斜版橋としての基本的な造形処理が成されていると思います。
しかし、それでもまだ難癖をつけると橋脚と主塔との関係、鉄道固有の問題といえる架線ピッチとの関係などが指摘できます。
(出典:鹿島HP)
一番新しい、第二吾妻川橋梁にも触れておきますか…
本橋梁で特徴的なのは4本柱から成る主塔で、それぞれ橋軸と橋軸直角方向の水平梁で繋がっており、そこから延びる斜版が下路桁に接続しています。どういった設計条件から決定したのかは分からないのですが、この主塔は桁と分離されており、かつ、これとは別に橋脚も設けられています。径間長や曲線橋といった点より構造面でこのような構成になったのでしょうが、主塔付近では多くの要素が錯綜する複雑な構成になっています。この写真では取付けられていないようですが、これから架線が設置されることを考えるとこういった印象はより強くなるはずです。
似た形式で、こういった諸々の要素を上手くまとめた事例といったらやはり鳴瀬川橋梁なのでしょうね。
ざっと斜版橋について書きましたが、結構長くなってしまったのでこのあたりで止めようと思います。しかし、どうすればこういった要素を上手く収めることができるのでしょう?この疑問を含めた橋梁設計について思うところはまた次回に。